特製の弁当

Posted By taga on 2019年7月8日

四年生では『走れ』という教材に入っている。
この教材は嫌いだ。
運動会のときにお母さんが「特製のお弁当」として持ってきたのは
自分の弁当屋特製のお弁当。
販売しているものにちょっと色のついただけのお弁当。
けんじは、そのことをなじる。
けんじがほしかったのは、お店の弁当ではなく、
お母さんの手作り弁当だ。

弁当屋を経営するお母さん、
女手一人で子どもを育てているお母さん。
そのお母さんに
「こんなの特製じゃない。」
と言葉をぶつけるけんじ。

僕には痛い痛い。
僕のうちはうどん屋だったが
惣菜や仕出し、懐石などもやっていた。
運動会や遠足のときは、学校から先生方のお弁当の注文が来た。
朝早くから起きて、従業員と一緒に作っていた。
エビの鬼瓦焼き。ノリを鳴門のように入れた玉子焼き。
イカの松かさ焼き。鳥ささ身の梅紫蘇焼き。
きゅうりとうずらのゆで卵を串に刺したも、。など等。
僕の弁当はいつも先生たちと同じ弁当だった。
友達はみんなうらやましがった。
「いいなあ、多賀の弁当は豪勢で。」
「先生と一緒やもんなあ。」
でも、僕は何もうれしくなかった。
友達の弁当はわが子のためだけに作られたもの。
僕の弁当は母の手作りではない。
特製の手作りの弁当が、とてもうらやましかった。
『走れ』のけんじの言葉は五十年以上も前の僕の心の言葉だ。

一年生の潮干狩り遠足の時、
小さなアルミの弁当箱に、きゅうりしか入っていない海苔巻の弁当だった。
海の家みたいなところで簀子に座って食べた。
今でもよく覚えている。
シンプルだが、それだけが僕の母の味。
手作りの母の味。

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