「ひとりひとりの子どもを大切にする授業づくり」講演から その9

Posted By taga on 2011年11月19日

■ さて、子どもとの関係ができてきたときからは、厳しい言葉があってもいいのです。

最初から厳しい言葉でスタートすると、子どもは心を開けません。

今の子どもたちは、厳しさに慣れていませんから、よけいですよ。

もちろん、いつもあまい顔ばかりはしていられません。

時には厳しい言葉もかけなければなりません。それは、あくまで関係ができてからだし、叱った後のフォローが必要です。

一生懸命に子どもを大切にしていたら、子どもたちは、必ず教師に返してくれます。

僕は、一人の子どもの言葉をずっと宝物にしてきました。

それは、三十三年前、教育実習に行ったときの、四年生の男の子の言葉です。

四十九人のクラスでした。

僕は、全員と一言ずつ言葉を交わして帰ろうと決めていました。

ほとんどの子どもと早い時期に話すことができたのですが、たった一人、O君という子どもだけと、話ができませんでした。

なんども、話しかけました。

給食で横に座ったときに・・・。ぽつんと一人で休み時間に立っているときに・・・。

ともかく機会を見つけて話しかけました。

でも、大学生の僕には、子どもの心を開く言葉なんて持ち合わせていません。

結局、一言も言ってくれないで終わりました。

実は、僕は実習が終わったときに、「もう教師になるのはやめよう。僕は向いていない。」と思っていたのです。

子どもたちとすっと仲良くなれる他の実習生と比べて、なかなか子どものそばに行きにくい上に、体育の授業をさせてもらっていたときに、子どもに無理なことをさせてケガさせたのに、そのことに気づかなかったのです。

「別の仕事を探そう。僕には向いていない。」

そう思って、実習を終わりました。

任の先生が、恒例の子どもたちからのお別れの作文をくださったのですが、それを下宿に帰って読んでいても、白々しい気持ちでした。

「多賀先生がいなくなると、さびしいです。」

そんな言葉が並んでいても、僕の気持ちは冷めていました。

ところが、その最後の方に、O君の作文を読んだとき、心が動きました。

「多賀先生は、僕にいつも話しかけてくれます。給食の時、遊んでいるとき。いつも話しかけてくれます。そんな多賀先生がいなくなるのは、ぼくは、いやです。」

と、書いてありました。

涙が出ました。今でも僕はこの作文を読むと、だめなんです。

教師をしていて、子どものことが信じられなくなりかけたり、もうやめたいなと思ったとき、この作文を取り出して読みました。

そうすると、あのとき、下宿の部屋で、一人泣いていたときのことを思い出すのです。

また子どものことを信じてみよう。

子どもには必ず伝わっているはずだ、と思い返すことができました。

たった一人の子どもに支えられるのが、教師です。

教師という仕事は、楽な仕事ではありません。

数字で計れないことが、ほとんどです。

特にこの頃は、保護者対応が難しいし、今の子どもたちのいろいろな問題が全てその肩にかかってきてしまいます。

割のいいしごとではありませんよね。

子どもという麻薬に魅入られないと続けられません。

僕は、みいられてしまって、ここまでやってきました。

毎日、教室で、ある子どもが昨日できなかった問題を解くことができた。

運動から逃げていた子どもが、一生懸命に走った。そんな小さな小さな子どもの「いいこと」が自分の力にならないのなら、教師は続けられません。

子どもを大切にするということは、教師自身のためでもあるのです。

僕の担任した全ての子どもたちが、みんな僕を支持してくれたとは、思えません。

教師は、その検証ができないものです。

教師の投げたボールは、時間をかけて返ってくるときもあります。

僕は、卒業生たちが心の支えです。

五年生の時まで、成績のもう一つで、学習意欲のない子どもがいました。

つりが好きで、僕とよく魚の話をしていました。

水産業の学習になったとき、僕は、魚の名前を当てることから導入しました。

もちろん、彼の活躍の場としてです。

予想通り、日頃はあまり手も挙げない彼が、大活躍しました。

みんなの見る目も変わりました。

そして、社会の単元テストでは、ほぼ満点をとったのです。
それから、社会科だけは、いつもがんばるようになりました。

社会科が彼の支えになりました。

彼は、いま、何をしていると思いますか。

教育大の講師をしているのですよ。

先生を育てているのです。

その彼が、学生たちに、五年生のときのことを語っているのだそうです。

一つでいいから、何かに自信が持てたら、そこから人生が切り開いていけるのだ、と。

一人一人の子どもたちは、みんな違った可能性を持っています。

その人生に何か貢献できたら、教師としてそれほどうれしいことは、ありません。

ひとりひとりを大切にするというのは、教師としての原点なのではないでしょうか。

終わります。ご静聴、ありがとうございました。

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Comments

2 Responses to “「ひとりひとりの子どもを大切にする授業づくり」講演から その9”

  1. こんどう より:

    教育実習のはなし、
    前も読んだことありますが何度読んでも、
    わたしも泣けてきます。
    先生って大変なんだなぁって、
    今になって思います。

    保育園の栄養士のお仕事は、
    産休代理だったので終わりました。

    栄養士の仕事も探してはみたのですが、
    職柄、早朝勤務が多くて、
    幼い子供がいては難しいところばかりでした。

    遊んでもいられないので、
    食ではないとこで働く事にしました。
    これもまた人生ですなぁ。

  2. taga より:

    なるほど。
    人生は、いろいろですね。
    僕も、来年どうしているか分からないものですよね。